初出場。19人という少人数楽団での挑戦。
比較的大楽団が多く出場するイベントへ出場するにあたって、彼女たちはどのような思いを胸に臨んだのか。
富士急ハイランドの3校演奏会、合宿所での夜の練習、そして富士バンドカーニバルに至るまでの1泊2日を密着取材。
彼女たちの意気込みや、若さ漲る等身大の姿をお届けします。
富士急ハイランドの3校演奏会
2024年7月14日(日)
富士バンドカーニバルの前日、富士急ハイランド園内セントラルパークにて3校の高校生楽団による演奏会。水戸女子高等学校は3番手である15:30~の出場。雨の予報が心配されていましたが、演奏会は無事に開催されました。
お昼過ぎに到着した彼女たちは元気いっぱい。どうやら演奏会の後、富士急ハイランドで遊ぶ時間があるため、そちらも楽しみなようです。
2番手である叡明高等学校の演奏を見学した彼女たち。叡明は部員数100名を超える大楽団です。19名で挑む彼女たちとは、どうしても規模の違いを感じてしまいます。しかし、「大きくていいなぁとは思うけど、私たちは私たちだから」と、揺るがない自信を見せる頼もしさ。
実際に、「名探偵コナン・メインテーマ」や、吹奏楽の曲として有名な「宝島」など、耳なじみのある演目を中心にひるむことなく堂々と披露していました。園内では聞き覚えのある曲に足を止め、最後まで演奏に聞き入るお客さまもたくさんいらっしゃいました。
合宿所での夜
夕食後には、明日に向けて最後の練習が行われました。楽曲全体を合わせるのかと思いきや、各パートが1音1音、音の響きを丁寧に確認しています。
「少人数だと割り振られるパートも多く、ある意味ごまかしがききません。1人ひとりが目立つので、下手に失敗できない」
そう言って、各楽器ごとの細かい調整が続きます。たしかにその通りかもしれません。緊張感がありながらも、顧問の川村先生とみんなが笑い合う和やかな風景も見られました。
今年のスローガン
練習後、3年生の3名に、毎年生徒たちで決めるというスローガンについて話を聞きました。
「まずはみんなに、どんな言葉を入れたいか単語をたくさん出してもらいました。それを組み合わせて今年のスローガンを作りました」
去年のコンクールの自由曲が愛をテーマにした曲だったので、「愛」という言葉をスローガンに入れたい意見が多かったようです。
「今年のコンクールの自由曲は“天空へ(そらへ)”という曲なんですけど、三澤慶先生が私たちのために作曲してくれた大切な曲です。そのタイトルから連想して、“羽ばたけ!”という言葉を最初に付けることにしました」
部員全員で決めたスローガン「羽ばたけ!世界に響く音楽/愛で輝け水戸女子Smile!」を胸に、彼女たちは明日、河口湖ステラシアターで富士バンドカーニバルに臨みます。
富士バンドカーニバル
2024年7月15日(月・海の日)
富士バンドカーニバル当日、前日同様雨の予報があったのにも関わらず、朝からほとんど雨が降ることもありませんでした。
2番手に登場した水戸女子高等学校。
大舞台、そして初出演というプレッシャーもあり、他の演奏会とは違った緊張感を抱えながらもステージへ向かう彼女たち。それでも舞台に立つと、それぞれに覚悟を決めた表情が見受けられました。これまでの練習の積み重ねを発揮するときがやってきた! と、彼女たちの強い気持ちが感じられた一瞬です。
川村先生の指揮のもと、「舞踏会の美女」「天空へ」「情熱大陸」と、3曲続けて繊細ながらも堂々とした演奏が繰り広げられました。重なり合った音が響き渡る丁寧な楽曲。マイクを持って前面に立ち、笑顔でパフォーマンスする姿。たくさんの練習を感じさせた立派なソロパート。どれをとっても、緊張を感じさせない見事なパフォーマンスでした。
小さな楽団でも立派な表現ができることを、初出場ながら表明できた瞬間だったと思います。演奏を終えた彼女たちにも、やり切った解放感からか笑顔が弾けていました。
「緊張したけど、練習の成果を十分に発揮できた」「他校の演奏を聴いているときは、ライブのように盛り上がれて楽しかった」と、演奏後は充実した気持ちで、イベント自体を存分に楽しめたようです。
水戸女子の吹奏楽部を牽引する
川村先生
彼女たちの楽しくも芯のある演奏は、どうやって育まれたのでしょうか。
3年前から水戸女子の吹奏楽部を牽引する、川村先生にお話をお伺いしました。
「うちは人数も少ないので、音を合わせて響かせることで大きな楽団と差をつけています。大楽団には大楽団の良さがありますけど、小さな楽団にも良いところがいっぱいありますよ。1人ひとりが主役のように活躍できますし、割り振られるパートも多くて成長しやすい。単純に人数が少ないので、指導やフォローが行き届きやすいという利点もあります」
練習や生徒たちとの関りを見ていると、終始笑顔で頻繁にコミュニケーションを取る先生。モットーは、「音楽を通して、人間を育てること」だといいます。
「楽器は練習すれば上手になるし、僕もテクニカルなことはあまりうるさく言いません。大事なのはコミュニケーションをとってチームワークを作ったり、自分と向き合ったりしながら人として成長することです」
川村先生は、とにかく言葉を大事にしているという。ふと手帳を覗くと、几帳面にびっしりと書き込まれた言葉の数々が。先生は毎日のスケジュールだけでなく、本を読んで共鳴した言葉や気に入ったフレーズなどを、日々書き留めているといいます。
お気に入りは、六代目・尾上菊五郎さんの「まだ足りぬ 踊り踊りて あの世まで」。本当に踊りが好きな気持ちが伝わって、生涯成長し続けたいという思いを感じるこの言葉が大好きだという。そう話す先生からも、本当に音楽が好きで、生徒といっしょに日々楽しく成長していきたいという思いを感じました。
「これからコンクールもありますが、大事なのは結果ではなく自分が限界までやりきること。そうするとどんな結果が出ても、学びを得て前に進むことができます。その経験は社会に出ても、絶対に活きてきますよ。富士バンドカーニバルもそう思えるステージになったと思うし、参加できて本当に良かった。頑張った生徒たちはもちろん、急な参加表明にも関わらず協力してくださった保護者の方たちにも感謝しています」