Vol.5 B♭クラリネット奏者

船橋 栞里ふなばし しおり

profile
東京佼成ウインドオーケストラ楽団員
●国立音楽大学卒業

誰かと一緒に音楽するのが楽しい!

私がはじめて取り組んだ楽器はピアノです。
幼稚園のころにピアノを習っている友だちがいて「私も弾けるようになりたい」とお稽古をはじめました。でも、正直にいうと練習は嫌いでしたね(笑)。

ところが小学校5年か6年の時に、学校の音楽祭で合唱の伴奏をすることになり、それがとても楽しかったのです。
歌声を聴きながらピアノを弾くうちに「私は1人で弾くより、誰かと一緒に音楽するのが好きなんだ!」と気がつきました。

まわりの音に耳を傾け、それに合わせて奏でる音楽は楽しいことを発見して、音楽に向き合うようになりました。

マーチングが得意な吹奏楽部とは知らずに入部

中学生になると、吹奏楽部に入りました。

理由はわすれてしまったのですが、木管楽器をやりたいと思い、仮入部の楽器体験の時にはフルートを希望しました。ところが、まったく音が出なくて‥。

次に挑戦したのがB♭クラリネットでした。
実は、クラリネットも最初音が出ませんでした(笑)。
でも多人数募集と書いてあったので「音が出ない私でも入れるかな?」とクラリネットを希望しました。

最初は音を出すこと自体が大変で大苦戦。でも、音が出るようになると、練習がどんどん楽しくなってきました。クラリネットは、E♭クラリネットからコントラバスクラリネットまで種類が多いので、クラリネット属だけでアンサンブルを組めることも魅力でした。

入部した吹奏楽部は全日本マーチングコンテスト全国大会の常連校でしたが、私はそのことを知らずに、木管楽器を演奏したい一心で入部しました。
曲調に合わせて次々とフォーメーションを変えるマーチングをみて、最初は「かっこいいなぁ」と憧れましたが、実際に参加してみると、練習は想像以上に大変でした。

汗拭きタオルを巻いてマーチング
音楽合宿で、心身ともに強くなった!

中学の吹奏楽部では、毎年3泊4日ぐらいの日程で約100名前後の部員がチャーターバスを連ねて合宿先に向かいました。

練習は、屋外でフォーメーションを組みながら行いました。
マーチングのフォーメーションは、1人抜けるだけで穴が空き、周りに迷惑をかけてしまいます。
首に汗拭きタオルを巻いて、真っ黒に日焼けしながら、夢中になって練習したものです。

今でも、夏になると「こういう暑さのなかで、よくがんばったな‥」と、ふと夏の音楽合宿のことを思い出す時があります。1人だったらできないことも、みんなと一緒のチームだったらがんばれる。まさにチームでつくる音楽の力を実感する合宿でした。

食事のことも、懐かしい思い出です。
部活ではパートごとに食事をしますが、全員が食べきるまで、席で待つのがルールでした。なかなか練習に来ないパートは「いつまでご飯食べてるの?」なんて言われるので、もう必死になって食べましたね(笑)。

中学校時代の音楽合宿は、体力的にも精神的にも私を強くたくましく鍛えてくれました。
知らず知らずのうちに、仲間のために頑張るチームワーク力が根づいたように思います。

少し話がそれますが、全日本マーチングコンテスト全国大会の遠征では、エーユーツーリスト社に宿泊先などを手配していただいて、バスを連ねて、総勢100人前後で向かったような記憶があります。
その後大学受験に向けてのレッスンのために、高校3年生の頃、北区にあるエーユーツーリスト社の音楽スタジオをお借りして練習したことも‥。なんだか不思議なご縁を感じます。

高校1・2年は、校内合宿で集中練習

高校は、吹奏楽の部活の盛んな学校に入学しました。
中学校ではマーチングコンテストを目指してきたので、高校では、全日本吹奏楽コンクールを目指す学校で演奏したいと考えたのです。

入学した高校の吹奏楽部は部員が100名以上の大所帯で、3年生主体でAの部に出場する「翔(つばさ)」と、1・2年生主体でDの部に出場する「希(のぞみ)」の2チームで構成されていました。吹奏楽部では、毎年その年のメンバーが自分たちで部活の目標を立て、その実現に向けてハチマキ姿で練習するのが伝統でした。

吹奏楽部の音楽合宿は「校内合宿」と「菅平合宿」と呼ばれる2種類がありました。
「校内合宿」は1泊2日、校内の柔道練習場に寝泊まりするミニ合宿です。
通常通り授業を受けて、放課後から夜遅くまで練習する時もあれば、西関東吹奏楽コンクールのように、午前中の早い時間に演奏が始まる場合は、演奏開始時間にベストコンディションにもっていけるように、早朝4時に起床して、練習をはじめる場合もありました。
ミニ合宿は年に数回あったように記憶しています。

感謝 繋がり 努力の先の頂点へ

目標を書いたハチマキ姿で練習

吹奏楽部では、全日本吹奏楽コンクールの全国大会が終了すると、3年生が部活動から離れ、2年生を中心にした次のチーム体制を決めることになっていました。

新チームが最初に取り組むのが、その年の吹奏楽部の目標を決めること。
私が高校2年生の時の目標は「感謝・繋がり・努力の先の頂点へ」
みんなでアイディアを出し合って決め、目標を書いたハチマキ姿で練習をしました。
目標を書いたハチマキはコンクールの最後まで洗わず、全体練習の時だけでなく1人で練習するときにもつけるなど、こまかなルールがあり、楽器と一緒にチーム活動のお守りのように持ち歩いていましたね。

コンマスとして、音楽合宿の練習を仕切る

新チームで、私は木管楽器のコンサートマスター(以降コンマスと表記)になりました。
吹奏楽部のコンマスの役割の1つは、目標実現に向けて毎日の練習を仕切ったり練習予定を立てたりすること。

「今日はこの曲で同じメロディを演奏するトランペットやサックスと一緒に練習をしてみよう」など、練習状況に合った、効果的な練習計画を立てて他のパートと調整することでした。練習している曲のスコア(総譜)を理解したうえで計画を立てる必要があるので、準備や勉強も必要でした。

「菅平合宿」は全国大会出場を目指す3年生主体のA部門メンバー55名が参加する、3泊4日の音楽合宿でした。
部活動だけでなく進学指導にも熱心な高校だったので、練習時間が圧倒的に足りない状況のなか「菅平合宿」は目標達成のために、とても貴重な「集中練習の機会」だったのです。

そのため、コンマスとして、合宿にいく前の段階での準備をしっかり行いました。
各パートが合宿から帰ってきた時点で、どのレベルに到達していたらいいのかを考えて、そこから逆算して練習計画を立てたり、細かい目標設定をしたり…

顧問の先生と相談しながら、ふだんの練習ではできない練習にも力を入れました。
難しい部分を抜き出して何回も練習したり、メンバー1人1人の演奏を聴いて、できない部分を洗い出し、それをみんなで一緒に何回も何回も練習する。こうして苦労を共にして演奏できるようになると、「できた!」という達成感もひときわ大きくなります。

限られた時間を最大限に使って練習した音楽合宿。
参加メンバーは吹奏楽部の活動と平行して勉強もがんばる子が多く、合宿の行き帰りのバスの中では、受験勉強に精を出すメンバーがほとんどでしたね。

ハチマキを繋いで、コンクール結果を待つ

こうして迎えた全日本吹奏楽コンクールの全国大会。
演奏を終えると客席に座り、メンバー全員が毎日巻いてきたハチマキの端を繋いで、審査結果を待ちます。心臓の音が聞こえるようでした。
結果は銀賞。
目標にしていた「頂点」には届きませんでしたが、全力を出しきった自分たちに悔いはありませんでした。

音楽教育専攻からクラリネット専攻へ
先生方のアドバイスで、進路を変える

進路については、高校2年生のころから音楽教員の免許を取るために、音楽大学の音楽教育専攻を希望しようと思っていました。

中学・高校での部活動で自分が経験してきた「みんなで一緒にやる音楽の楽しさ」を、教師として子どもたちに伝えたいと考えたのです。

ところが、顧問の先生や、クラリネット指導のトレーナーの先生に相談したところ
「楽器専攻に進んでも教員免許は取れるし、そのほうが将来の選択肢が広がるのでは?」
という思いがけないアドバイスをいただきました。

先生方のアドバイスがきっかけとなって、クラリネット専攻で国立音楽大学に入学。
楽器演奏を学びながら、音楽の教員免許も取得しました。

音楽大学に進学してからは、クラリネット演奏で頑張ろうという気持ちが強くなり、現在は佼成ウインドオーケストラのB♭クラリネット奏者として活動しています。

東京佼成ウインドオーケストラ(以下TKWO)の演奏は、中学生の頃からiPodで愛聴していました。
中でも好きだったのが、2014年の全日本吹奏楽コンクールの課題曲「斎太郎節」の主題による幻想(作曲:合田佳代子)です。何回も聴きました。

10年前、中学生だった私からすれば夢のような存在だったTKWOに、現在はクラリネット奏者として参加している。
音楽が好き、みんなで合わせるのが楽しい、というところからはじめて、仲間とともに同じ目標に向かって進み、先生方のアドバイスによって、進路の幅を広げたことが、今日に繋がっており、感謝しています。

音楽合宿は自分を成長させてくれるきっかけに

こうして振り返ってみると、1つの目標に向かって、みんなでがんばる音楽合宿は、音楽人生に限らず、自分を人として成長させてくれるきっかけだったと思います。

これから音楽合宿デビューする皆さんも、今年で音楽合宿を卒業するみなさんも、仲間と一緒に好きなことに思う存分取り組める音楽合宿で、部活ならではの達成感を楽しんでください!

みんなへのメッセージ