Vol.4 ホルン奏者

小助川 大河(こすけがわ たいが)

profile
東京佼成ウインドオーケストラ楽団員
●愛知県立芸術大学卒業
●ワイマール・フランツリスト音楽大学卒業
朝日新聞社「コジンレン」講師

10回以上の音楽合宿が、成長の足がかりに

東京佼成ウインドオーケストラのホルン奏者である小助川大河氏は、小学校から大学まで、通算10回以上の音楽合宿に参加された貴重な経験をお持ちです。さらに近年は、指導者として音楽合宿に携わる「音楽合宿の達人」。

生徒として、指導者として、2つの立場を踏まえた、小助川氏ならではの音楽合宿についてのお話をうかがいました。

「みんなで一緒に上手くなろう!」
あそびを通して結束した小学校時代の合宿

小さなころから音楽が好きでした。

ピアノを習ったり、リコーダーを吹いたりしていたのですが、たしか、4年生のころだったと思うのですが、放課後の校庭に響く金管バンドの演奏が気になるように。
「管楽器、吹いてみたいかも……」と思い、4年生の冬に金管バンドの部活を見学しました。練習風景は楽しそうで、さっそく入部。コルネットを担当しました。

はじめて音楽合宿に参加したのは小学校5年生の夏休みです。
金管バンドコンクールに向けての2泊3日の合宿でした。音楽が好きな仲間どうしの合宿ですから、メチャメチャ楽しかったですよ。

小学生時代の音楽合宿は、日程の半分が練習で、残りの半分は、料理を作ったり、遊んだりしました。仲間と一緒になって何かをするのが楽しくてしかたがなかったこと、みんなで作ったカレーがとびきり美味しかったことなど、今でも、懐かしく覚えています。

今ふり返ってみると、小学校時代の音楽合宿の「遊びの時間」は貴重だったと思います。
一緒に遊んで仲良くなり、結束力が出てくると、練習でも自然に「みんなで上手になろう」という気持ちになり、楽しく練習に取り組みました。

小学校における音楽教育は人格形成に関わるとても大切な要素です。
楽器や音楽を楽しんで学ぶことは、心の豊かな人間になるきっかけになるし、その後の人生にも大きく関わってきます。

中学の吹奏楽部でホルンの奥深い魅力のとりこに

中学校の吹奏楽部では、トランペットを希望したのですが、かなわず、ホルンを担当することになりました。
当時、私の通っていた中学の吹奏楽部では、ホルンはあまり人気がありませんでした。
楽器の構造が複雑で、音を出すのが難しく、敬遠されていたようです。
けれども、実際に練習をはじめると、最初に感じたとっつきにくさは消えて、しだいに多彩なホルンの魅力に引きつけられるようになりました。

後ろ向きのベルから床や壁に反射して客席に響きわたるホルンの音色は、勇壮な音・艶やかな音・あたたかくほっこりする音・遠近感のある音‥本当にいろいろです。

ホルンは、金管楽器でありながらも木管楽器とも相性が良いため、吹奏楽・管弦楽に加え、木管アンサンブルにも金管アンサンブルにも登場する人気楽器でもあります。

難しいけれど、多彩な表現が可能なのもホルンならでは。吹けば吹くほど、その奥深い魅力のとりこになりました。

音楽合宿は楽しい!
でも、ラクして上手くはなれないよ

中学校の音楽合宿では、吹奏楽コンクールの練習に明け暮れました。
顧問の先生の方針で、自由曲はわりとクラシック寄りの選曲が多かったです。中学校1年生の時には、B.バルトークの舞踏組曲を演奏しました。

小中学高校時代のコンクールで練習した楽曲は、いまでも全曲口ずさんで歌えるほど、頭のなかにしっかりと叩き込んでいます。
練習は楽しかったです。ホルンで表現できる多彩な音色を出したくて、先輩に聞いたり、自分でためしてみたり。合宿中は、時間を忘れてあれこれ吹いていました。

ホルンの演奏では、ロングトーンやアンブシュア(口まわりの筋肉の使い方)を鍛えるなど、日々の地道な基礎訓練が大切です。

この点は大人も子供も同じで、演奏しなければあっという間に筋肉が衰えます。私の場合は2日吹かないと違和感を感じはじめ、3日吹かないと仕事にならないと感じます。
毎日ある程度練習すれば筋力は維持できます。

揺るぎない基礎力を身につけることが、ホルンの奥深い音色を習得するための第一歩。ラクして上手くはなれませんね。

「人見知り」な性格
音楽合宿を重ねるうちに、いつの間にか卒業

小さいころから「人見知り」な性格でした。けれども、先輩たちが積極的にひっぱってくれたおかげで距離感が縮まり、練習も楽しくなり、部活への愛着がわきました。

こうして、合宿経験を重ねるごとに、人見知りな性格も少しずつ変わり、いつの間にか卒業していましたね。いやむしろ、今ではひとたびホルンを手にすると、雄弁になるかも(笑)。

熱血のホルン演奏で、コロンコロンと転がった管

高校生になり、吹奏楽部で引き続きホルンを吹きたいと思っていましたが、メンバーが多く皮肉なことにトランペットを担当することに。高校1年生の吹奏楽コンクールはトランペットで参加しましたが、3年生が部活を離れるタイミングで顧問の先生にお願いして、なんとかホルンメンバーに加わることができました。

こうして、晴れて高校2年生のコンクールでは、G.ビゼーの「アルルの女」第2組曲よりファランドールをホルンで演奏することに。うれしかったです。
この曲は、ホルン奏者にとっては、やりがいがあると同時に、休みなしの難曲でもあります。
ところが、コンクール本番のステージで、エンディングに向けて渾身の力で演奏していると、自分もホルンもヒートアップして管が滑りやすい状態になり、なんと管が抜けてコロンコロンとステージの床を転がってしまったのです。ホルンにまつわるほろ苦い思い出です(笑)。

「自分もこういう演奏をしたい」と、プロを目指す

高校生は、放課後も授業の補講があるなど、なかなか全員揃って練習することが難しくなります。そうなると合奏を組むのも難しいため、そこで大切になってくるのが音楽合宿なんです。

中学に続き、高校時代の顧問の先生も、クラシック寄りの先生でした。顧問の先生のいる音楽準備室には、ブルーノ・ワルターやユージン・オーマンディのクラシックの名盤が揃っていたので、夢中になって、何回も何回も聴きました。

いつしか「自分もこういう演奏をしたい」と思うようになり、プロになる可能性を手探りしはじめたのは、このころでした。

起床の合図は、新入生が奏でる
「ジークフリートのホルンコール」

愛知県立芸術大学に入学してからも、毎年合宿がありました。
グループレッスンや各自の能力の底上げを目的にしたもので、ホルン合宿と呼んで、楽しみにしていました。

ホルン合宿のモーニングコールは、1年生が奏でるR.ワーグナーの「ジークフリートのホルンコール」が恒例となっていました。担当する1年生は大変ですが、テンションも上がりましたね。懐かしい思い出です。

おもしろいもので、ホルンという楽器とホルン奏者の性格は、つき合っていくうちに、しだいに似てくるように思います。ホルン奏者も、ホルンと同じように含蓄に富む、懐の深い人が多いです。

ふり返ってみると小学校から大学4年まで、10回以上の音楽合宿に参加してきました。

音楽合宿を通じて、学年関係なく、音楽が好きというただその一点でつながる仲間とともに楽しい時間を共有できたこと、これがまず何よりの収穫です。

音楽合宿の意義は、小学校、中学校、高等学校、大学で変わりますが、演奏技術の習得だけでなく、より豊かな心を育む足がかりになったと思います。

私自身がここまで音楽を続けることができたのも、プロを目指す前に、小学校、中学校、高等学校、大学で音楽合宿のような、楽しい音楽経験を仲間と共に積み重ねてきたことも大きいと思います。

音楽合宿のススメ

音楽合宿は、ふだんの部活動とは異なる環境で、集中練習に取り組む絶好の機会。
小助川氏から、「音楽合宿だからこそできること」についてお話を伺いました。

音楽室からとび出して、
響きのある大空間での演奏感覚を体感しよう

吸音材で囲まれた音楽室では、合奏本来の音の響きを感じとることができません。
そのため、いきなりステージに上がると、音の反響に戸惑う生徒もいます。
音楽合宿は、響きを感じ取れる音響環境で、自分達の奏でる音の響きをコントロールする経験を積む絶好のチャンスです。
合宿場所を選ぶときには、練習場の充分な広さと音響環境を考えましょう。

現実問題として、コンクール会場に似た空間の確保が難しい場合でも「ふだんの練習とは異なる環境の中で自分たちの演奏をコントロールする経験」は、かけがえのないもの。 
経験を重ねることによって、会場に適した奏法を工夫する感覚が鍛えられます。

「遠くから聴こえるような表現」
を奏でるために、工夫を重ねよう

音楽合宿でホルンパートの生徒たちの指導をする際に「遠くから聴こえるような表現で吹いてと要求された時にどうするか」を課題に演習することがあります。

まずは、メンバーが1人ずつ交代に練習会場の外、少し離れた所に行き仲間が奏でる演奏を実際に遠くから聴きます。これをメンバー全員が交替で体験して、次にその聴いた時の感覚を再現するために工夫を重ね、試行錯誤し、色々な表現のコントロールを学ぶのです。
この練習は、吸音材のある音楽室では体験できない練習ですので、音楽合宿の際に、広くて音響のいい空間を活用して実践してみてください。

合宿地選定は、曲にちなんだ場所も候補に

曲のイメージを膨らませるために、テーマにそった合宿地を選ぶことも大切です。

たとえば、真島俊夫「Mont Fuji~北斎の版画に触発されて~」だったら、雄大な山がのぞめる場所、山中湖や河口湖畔で合宿するのもいいですね。

吹奏楽に取り組むみなさんへ

学生時代に経験した吹奏楽は、その後の人生にも、大きな影響を与えます。
無心で取り組む音楽は、心を豊かに育み、時には自分を勇気づけてくれます。
まずは音楽合宿に参加して、仲間と一緒に音楽を楽しみ、試行錯誤して学んでください。

音楽合宿を通じて得られる経験は、子供たちにとって一生の宝物。
教育者の役割は、その後の人生でも忘れられないような、楽しい思い出づくりのあと押しをすることでもあるのではないでしょうか。

みんなへのメッセージ