Vol.34 クラリネット奏者

篠原 猛浩(しのはら たけひろ)氏 

profile
●Osaka Shion Wind Orchestra(オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ)メンバー
●大阪芸術大学卒業後、パリ・エコール・ノルマル音楽院で学び高等コンサーティストディプロム取得。
岩井秀昭、ギィ・ドゥプリュの各氏に師事。第39回なにわ芸術祭新人奨励賞。第18回日本木管コンクール第2位(1位なし)等を受賞。
これまでに大阪のいずみホール、パリのサルコルトー等各地でリサイタルを開催。現在大阪を拠点に活動。
オオサカ・シオン・ウィンドオーケストラクラリネット奏者。大阪芸術大学非常勤講師。高槻市消防音楽隊講師。
(株)ビュッフェ・クランポン・ジャパン契約講師。 

クラリネット担当は「めぐりあわせ」
最初から自然と音が出せた 

僕が音楽を始めたのは4歳のころです。はじめは親が連れて行ってくれたヤマハ音楽教室の幼児科で、グループレッスンを受けていました。途中からピアノの個人レッスンも受けるようになり、真面目に練習していた記憶はありませんが、楽しく通っていたと思います。 

その後中高一貫校に進学し、「音楽部」、いわゆる吹奏楽部に入部しました。卓球部とワンダーフォーゲル部にも興味があり、どこに入部しようか迷っていたのですが、部活動紹介の舞台が決め手となりました。ほかの部は、各部の部長が順番に出てきて、自分たちの部を紹介するだけだったのですが、音楽部だけ演奏があり、かっこいいなと思ったんです。今考えると、ちょっとずるいですね。 

特にやりたい楽器を決めていたわけではなかったのですが、中高合わせて20人ほどしか部員がいない部だったため、人数の都合上、トランペットかクラリネット、どちらかを担当することになりました。どちらも経験がない楽器なので、とりあえず吹いてみたところ、なぜか、トランペットは全く吹けなかったのに、クラリネットは自然に音を鳴らすことができました。苦労なく音が出せたので、そのままクラリネットの担当になりました。クラリネットを吹くことになったのは、めぐりあわせだったのかもしれません。 

その部は人数が少ないながらも歴史があり、プロの演奏家も輩出するような、伝統ある部活動でした。たまに卒業したOBの方が来て練習を見てくれることがあったのですが、そのときはいつも「我が部は……」といった、いわゆる昔の話を長い時間聞いていました。 

中学・高校合同で合宿へ
3泊4日で先生や先輩との関係性が変化 

中学の時は、高校の部員と合同で毎年合宿に行っていました。吹奏楽部としては珍しく冬の合宿で、大阪府の南部にあった自然の家のような場所へ、3泊4日で行きました。当時は年明けにアンサンブルコンテストがあったため、出演するメンバーはそれに向けた練習をし、それ以外のメンバーも、最終日に部内で開催するソロコンテストの練習などを行っていました。 

合宿には、いろいろな楽器の先生も来てくださっていて、基礎的なことはもちろん、ちょっと楽しみながら演奏するアンサンブルなど、普段はなかなか教わることができないこともたくさん指導してくれました。合宿で時間がたっぷりあるので、先生から教わるだけではなく、自分たちでいろいろと意見を出し合って工夫をすることもありましたね。 

それから合宿を行ったことで、音楽的に成長するだけではなく、先生や部員との距離が縮まるという良さもあったように思います。普段の練習だと、どうしても「一人の先生対生徒の集団」という関係性になりがちです。でも合宿では個人的に話ができる機会が多く、たくさんの話を聞くことができました。 

また先輩との関係性は、合宿に来る前と後で大きく変わったように思います。お伝えしたようにその部は中高合同で活動していましたが、中学1年生にとって、高校生の先輩は自分たちよりもはるかに大人の存在です。体格も大きく違いますし、「全く別世界の人」と感じ、正直最初は「なんだか怖い」とさえ思っていました。 

そうしたイメージが、合宿に行って変化しました。特に印象に残っているのが、先輩が部屋にゲームを持ち込んで遊んでいたときのことです。先輩はゲームに夢中になってしまい、先生が部屋に入ってきたことに全く気が付いていませんでした。先生がその先輩を呼んだところ、部員に声をかけられていると勘違いして、「うるさい、今ちょっと今忙しいねん」と返事をしてしまったんです。先輩はそのあと、先生に平謝りしていました。 

今となってはちょっとした笑い話ですが、合宿のおかげで普段は見られない先輩たちの姿を間近に見ることができて、なんだか少し身近に感じるようになり、話ができるようになった気がします。 

「楽器で音を出すのはどういうことか」を学んだ
霧島国際音楽祭 

中高一貫校だったため、高校生になってもそのまま吹奏楽を続けて、高校3年生の時には「霧島国際音楽祭」の合宿にも参加しました。この音楽祭は鹿児島県の霧島高原で毎年開催され、アジアを代表する音楽祭の一つともいわれるもので、国内外の名だたる音楽家が講師として指導にあたります。 

音大受験に向けて準備を進めていたこともあり、当時は何もわからず「せっかくだからちょっと参加してみよう」といった気持ちで申し込みをしました。確か1週間くらいの日程だったと記憶していますが、行ってみるとまるで別世界でした。周りを見渡すと、参加者は音大生や芸大の附属高校の生徒など、レベルの高い人ばかり。今も音楽の世界で活躍している人たちが大勢参加していました。すごい世界に急に放り込まれたと思い、かなり緊張したことを覚えています。 

高いレベルの人たちに囲まれた僕にとって、まさに「怒涛の1週間」でしたが、音楽的には、とても学びの多い経験でした。 

特に大きな収穫だったのは、「楽器で音を出すというのはどういうことか」を、いろいろな角度で感じられたことです。講師から言われたのは、「楽器というのは、ただ指で押さえて息を入れれば鳴らすことができるのではなく、音のイメージを持つことが大切だ」ということです。今、自分が出しているのはどんな音なのか、どのような音を自分は出したいのか。そして、音を出すときは、そのイメージと自分の身体、そして楽器を結び付ける。 

この「音のイメージと楽器を結びつける」というのはどういうことなのかを、本当にいろいろな側面から論理立てて教えてもらい、自分なりに必死になって模索しました。この合宿でたくさんのことを学びましたが、特にこの点に関しては、プロとなった今でも大切にしていることです。 

たくさんの時間を費やす合宿だからこそ
得られるものがある 

合宿には、長い時間みっちりと音楽に取り組むからこそ得られる価値があると思います。もちろん、単発で指導を受ける良さもあります。限られた時間の場合、指導する側は、あまり細かいことは言わずに一番伝えたい本質的なことをざっと話します。そこで得られるファーストインパクトも大切です。 

しかし、その1回では伝わりきらないことがたくさんあります。長い時間をかけて繰り返し取り組むことで、そのことをさまざまな角度で教わり、自分でも試行錯誤を繰り返し、身に付けていくことができるようになります。いろいろな曲を通じて3回、4回と言われていると、やはり自分の中に入ってくる感じ方も、記憶のされ方もだんだん変わってくるんです。 

それからこの合宿では、たくさんの他の生徒のレッスンを聞くことができました。人のレッスンを聞いていると、一歩引いた状態で落ち着いて考えることができます。「自分も同じことを言われたな」とか「なるほど、こういうことを伝えたかったのか」とか、新しい発見をすることもあります。 

他人のレッスンを聞くことで、技術だけではなく、気持ちに対する影響もありました。みんなの音楽に対する意識がものすごく高くて、音大受験を志していた僕は、「音大に行くというのは、こういうことなんだな」という現実を、ガツンとぶつけられました。まだまだ自分が思っていたよりも、はるか上の場所があるんだ……それを見せつけられて、ある意味ショッキングでしたし、多くのことを得ることができました。 

じっくりと他人のレッスンを聞くことができるのも、合宿ならではです。たくさんの時間を使えるということが、やはり合宿の一番贅沢な点ではないかと思います。 

プロになって学んだ
それぞれのパートの大切さと面白さ 

将来的にも音楽の道に進みたいと漠然と考え始めたのは、中学生のころだったでしょうか。音大に進み、留学も経験して、行く先々ですごい人たちに出会いました。若いころは周りに圧倒されて、打ちのめされてばかりだったような記憶があります。 

プロとしてやっていこうと気持ちが固まったのはいつかと聞かれると難しいですが、あえて言うならば、20代後半の時に、日本木管コンクールに入賞できたときです。特に予選の時は、「これでダメだったらもうやめたほうがいいな」と感じるぐらい、自分でも演奏に手ごたえがありました。 

自分なりに「いい演奏ができた」と感じるのは、作品の形をしっかりと作り上げることと、自分の演奏や表現をすること、そのバランスが取れて、自分の空気の中で演奏できたときです。独りよがりになって、ただ自分のやりたいように演奏するだけにならないよう注意する必要がありますし、かといって形通りの演奏に終始しているだけでは、そこに生命が宿りません。もちろん、自分ではうまくいったと思ってもダメなときもありますし、難しいですよね。 

プロになってからも、発見がたくさんあります。今、オオサカ・シオンではサードパートを担当することが多いのですが、その経験を通じて改めて、ファーストではないポジションならではの面白さ、役割の重要さを学びました。 

吹奏楽でもオーケストラでも、当然ながらメロディーを奏でる人ばかりではなく、伴奏する人がたくさんいます。楽器によってはあまり目立たなかったり、出番が少なかったりすることもありますが、そこがしっかりとしていないと、演奏は成り立ちません。 

ソロパートもメロディも伴奏も、それぞれの音が組み合わさって一つのものを作り上げることができたとき、そして全体として充実した演奏ができたときは、本当に音楽の面白さを感じます。 

たとえば、中学・高校の吹奏楽部だったら、セカンドやサードパートは、学年が下の生徒が担当することが多いかもしれません。でも、音楽的に素晴らしい演奏をしようと思うと、実はそこはとても重要で、決して、先輩の陰に隠れていてよいパートではないんです。 

僕自身もそこに気がつくことができたのは最近になってからです。それがわかってくると、どのパートを吹いていても、いろいろと面白い発見があり、本当に楽しく演奏ができるようになります。今吹奏楽部でがんばっている学生のみなさんにも、それぞれのポジションの役割の大切さ、面白さをぜひ知ってほしいなと思います。